No.210
今我慢すれば後で贅沢させてやる、と言って脱サラした夫。
5年経っても贅沢できない状況に、限界を感じています
H・Tさん(35歳) 夫 子供ひとり
2005.12.21

 夫は5年前に脱サラして会社を作り、がむしゃらに仕事をしています。私は夫の脱サラには反対でした。でも野心家の夫は、この会社では自分は大きくなれないと思ったらしく、私の反対を押し切って辞めてしまいました。おかげで、収入は激減、休日もなしで家庭を振り返ってくれなくなりました。私は家計の足しにと、子供(7歳)が小学校にあがってからパートに出ています。
 明るいのがとりえの夫ですが、決まり文句が「今我慢したら後で贅沢させてやる」で、でも、そう言い始めて5年、状況は全然よくなりません。世の中は少しずつ景気がよくなっていると聞いているのに、我が家の家計は教育費が増えていく分、厳しくなっています。

Photo by Norihiro Mita
 先日、お得意様の外国人を接待すると、夫婦同伴のディナーにつきあわされました。アメリカ人のご夫婦を見ていると、夫婦ともブランド品のファッションで、私たちよりずっと裕福なのがわかり、自分がすごくみじめに思えました。それで「あなたがあの会社を辞めなければ、ブランド品着られたのに」と言ってしまったら、夫に殴られました。あとで謝ってくれましたが、でも、きっと、私はもうそろそろ限界なんじゃないかと思います。 いつになったら贅沢させてくれるの? と、いつも思っている自分がいます。
 夫のことは嫌いではありませんが、もともと私は甘やかされて育ったほうですし、お金的にも環境的にももっと余裕がないとやっていけないタイプなんだと思います。自分がキレてしまうんじゃないかと思うと、不安でしかたがありません。
 
限界というのは別れるってことなのかな? 
その場合は後で夫が成功しても、後悔しない覚悟だけはしておくこと
 贅沢って何なんだろうなあって、考えてしまいました。

 ブランド品で身を固めるのは、確かに贅沢三昧かもしれないけど、贅沢が即幸せというふうに直結するものなのかな。 そりゃ買えないより買える方がいいという程度の幸せ度なのか、ブランド品が買えれば他に何がなくても幸せと思えるくらい重要なことなのか。

 その辺のことは、個人の幸福感の問題だから、何とも言えないんだけどね。夫婦観も人それぞれで、あなたにとって夫は何不自由ない生活を保障してくれて、 お金の心配せずに贅沢をさせてくれる存在なのだということなら、夫の価値はもっと違うんじゃないのと他の人が言っても、受け入れられることじゃないだろうね。

 もう我慢の限界だとあなたが思うなら、まだ限界じゃない!と叫んでも、どうしようもない。やっぱり限界なんだろうね。

 ところで、何の限界なの? これ以上、結婚生活を続けていくことが、もはや限界ってことなの? だとすると、離婚するってことになるのかな。

 離婚したら、実家に帰って、金銭的にも環境的にも今よりずっと満足できる生活ができるんだね。でも、その道を選択したら、あなたと別れてから夫が大成功して、実家にいるよりずっと贅沢できるようになっても後悔しない腹だけは、かためておかないといけないよ。

 あることに賭けるということは、吉と出ても、凶と出ても、その結果は引き受けるってことだから。あなたと別れて、夫がもっとひどい状態になったらあなたの勝ち、離婚後一気に事業が拡大して大成功を収めたら、あなたの負け。

 うまくいかなかったら、お金返してなかったことにしてなんてことは許されないように、その時になってもう一度元に戻ろうなんてことはできない。自分が選んだことの結果は、どんなに悔やんでも引き受けざるを得ない。

 あなたは、夫のことは嫌いではないって書いてるね。嫌いではないのなら、好きなのか? でもきっと好きでもないんだね。というより、好きと書けない。なぜなら、好きになるのに条件があって、その条件を夫が満たしてくれないからってことになるのかな。

 もし、脱サラした夫が、トントン拍子に事業が成功して、勝ち組に直ちに入っていたら、限界になど達していなかったのにね。現状に満足せず、さらに大きな野望を持って、それを断行する夫は、贅沢への可能性を追求する人でもあるわけで、そういう意味では相性よさそうなんだけどね。

 ただ、花開くまでには、雌伏の時が必要になる。ここがあなたには耐えられない。賭けというのは、 バクチだからね。 花が開くという保障はない。保障された賭けなんてありえないから、その間は、じっと辛抱するしかない。

「今我慢したら、後で贅沢させてやる」というのは、夫の心意気なんだろうね。だから、しばらく我慢してくれというお願いでもあった。

 ただ、“しばらく”という長さが、あいまいだった。2年なのか、3年なのか、5年なのか、10年なのか……。

 あなたにとって、5年というのは予想外の長さだったわけだ。もうこれ以上我慢できないと言っても、夫が元の会社に戻ったら、この期間が損失になってしまうし、夫の選択肢に後戻りってのはない。だから目が出るまでがんばるという選択肢しかない。あなたの選択肢は、我慢するか、もう我慢するのをやめるかとふたつある。我慢できないとなったら、残るのはひとつしかなくなってしまう。

 でも、子供はどうするの? お父さんが、もっと豊かな暮らしをさせてくれないから別れる、ブランド品ひとつ買えないからみじめでやってられないから別れる、というあなたの選択を受け入れてくれるのかな。

 受け入れてくれるということは、あなたと同じ価値感を持つということで、これって子供にとってはけっこうしんどいような気がするけどね。 だって、物質的な豊かさのみが人間関係を支えるもので、 物質的に恵まれないと夫婦関係も親子関係も成り立たないのだということを、身をもって刷り込まれることになっちゃう。

 幸福感を計る物差しは、たったひとつより複数あった方が、強く生きられるように私は思うものだから、ちょっと心配してしまうんだけどね。

 外国のお客さんを接待した時、ブランドファッションの相手に、ブランドで固められなかったあなたがみじめに感じて、会社を辞めなければ自分だって着られたのに!って夫を責めて、夫が殴った。

 夫は、きっと悲しかったんだと思うよ。妻にもっと素敵な装いをさせたかったのにと自分をふがいなく思う一方、あなたがきっと不満に思っているだろうということだって想像できる。自分だって先行きへの不安や後悔で一杯一杯だったところへ、一番痛いところにガツンと見舞っちゃったんだよね、あなたは。

 夫は思わず手が出てしまったんだろうけど、後でちゃんと謝ったんでしょ。物事を客観的に見られる人で、しかも自分の間違いをきちんと他人のせいにしないで悪いことは詫びることができる人だということがわかる。で、あなたは、夫の気持ちを言葉の暴力で傷つけてしまったことを、夫にちゃんと謝った?

 やはり、会社を辞めたのは失敗で、経済的に余裕のない状態にあなたを置いている夫は許せない存在なの? 我慢の限界でキレそうなのは変わらない?

 それなら別れるしかないのだろうけど、 あなたと別れた後、 彼に、一緒に苦境を乗り越えて、いつになるかわからないけど夢を一緒に支えようという女性があらわれるかもしれないよ。

 別れた後、夫の仕事が好展開を見せて成功するかもしれないよ。子供の親権が夫の方にいってしまうかもしれないよ。子供がお父さんを選ぶことがないともいえない。

 それでも心が動かない、今の余裕のない生活は、絶対に私は我慢できないと自信を持っていえるかどうか、自分に冷静に問いかけてみてごらんよ。きちっと自分の気持ちを確認しておかないと、後悔ばかりの人生になっちゃうからね。

 それともうひとつだけ。贅沢をしたい、余裕のある生活をしたいと願うのはエネルギーにつながるけど、それはあくまで自分がそのためにがんばろうという気持ちになった時。夫に贅沢をさせてもらうとか、親に頼って余裕のある暮らしをさせてもらうという受け身では、 この先、頼った木が枯れたら共倒れの宿木のような人生になっちゃうよ。

※年末年始2週間お休みさせていただきます。次回の更新は1月11日です。