No.217
小さい頃からいつも母は側にいてくれませんでした。
いまだに振り向いてくれない母に恋しい思いがつのっています
S・Eさん(33歳) 夫 長男
2006.2.22
 両親が商売をしていたので、生まれてまもなく祖父母に引き取られました。幼稚園にあがるようになり、両親と暮らすようになりました。小学校に上がる頃、店にいても誰も相手にしてくれず、近所の友達を遊びたいからと自分から鍵っ子になりました。一人っ子で鍵っ子だった私は、夜遅くまで1人で母を待つ寂しさを紛らわすため、母に心配をかけないため、いつも自分の感情に蓋をして強い振りをしていた子供時代でした。
 年を取り、母は仕事を辞めましたが、今度は母方の祖母の介護が待っていました。いつも、痴呆の祖母を中心にした生活が始まりました。結婚して、子供が生まれてから、母と自分はいつも一緒にいられなかったという寂しさや辛さがひしひしと身にしみるようになりました。
 小学校の時、肺炎で入院したときも母は付き添ってはくれませんでした。結婚式の時も式の途中で、母は祖母のコトが心配で私に一言もなく帰って行きました。出産の時、緊急帝王切開になったのですが、手術室から出てきたときには、母は祖母が心配だからと帰った後で、私はとても辛くて苦しい思いをしました。いつも、私は一番側にいて欲しい母に、側にいてもらえない寂しさをぐっと我慢してきました。 
 今年33才になりましたが、今更母が恋しくてたまらないのです。大人のくせに、母に側にいて欲しい。孫に会いに来て欲しい。祖母は98才になります。あと少しだから、寿命まで見届けたい。母は、同じコトをくり返し、私の家に遊びに来ることも、孫に会いに来ることもありません。
 私に、「ごめんね。でも、あんたと同じくらいお祖母ちゃんが大事だから」。私は、「うん、わかってる。また、これるようになったらきてな」と言うものの、内心は、煮えくりかえる思いです。いつも、いつも、仕事、お祖母ちゃん、我慢して、辛抱して、いつもいつも謝ればいいと思って! こんなに私は辛くて側に来て欲しいって言ってるのに!  母は、母。私は私。何度も考えるのですが、母が恋しくてたまりません。実家に帰っても、祖母で一杯一杯の母には「お祖母ちゃんに風邪がうつるから、風邪引いてたら来んといて」と言われます。母が恋しくてたまらないけど、満たされない思いはどうしたらいいのでしょうか? 最近は、そのことばかり考えてだんだん、暗くなっている自分をさっぱりしたいのですが。
 
今は、息子と目一杯親子してればいい時期なのかも……。
母親には介護を手伝いがてら気軽に会いに行ってみたら?
 誕生から幼稚園まで祖父母に預けられて、一緒に暮らすようになってからも、親は仕事が忙しくてほとんど親子の接触がない寂しさを、あなたはずっと我慢してきたんだね。無邪気に甘えたり、わがままいって怒られたり、他愛ないことを言い合ってテレビを見るなんてこともあまりなかったのかな。それが尾を引いて、いまだにお母さんに本音をぶつけたり、甘えたり、文句を言ったりできないままになってしまっている。

「なんでおばあちゃんばっかりなのよっ!」 「少しは私のとこに顔みせなさいよ」 と言えない。来て欲しいのに、ずっと側にいて欲しいのに、それをお母さんにぶつけることができないんだものね。おばあちゃんも大事だからというお母さんに「うん、わかった。 来られるようになったら来て」と言ってしまう。少しもわかってなんかいないのにね。来られるようになったらじゃなくて、来られなくても来てよと言いたいのにね。

 お母さんのほうにも、やはり同じような不自然さがあるように感じる。「わがまま言ってるんじゃないよ」「今は、おばあちゃんの方が大事でしょ」とあなたに言えない。ごめんねとあやまり、辛抱してねと頼んじゃう。

 きっとあなたに対して、ずっと申し訳なかったという思いを持っていたのかもしれないね。あなたも子供を持ったからわかると思うけど、生まれたばかりの我が子を、仕事のためとはいえ祖父母に預けてしまうしかないというのは、 母親にとってはとっても悲しく切ないことだよね。幼稚園にあがってやっと引き取っても、やはり仕事が忙しくてあなたと十分に遊んであげることもできなかった。祖父母のところにいるより、 手の届く近くにいながらそれができないというのは、見えない遠くに離れているよりもかえってつらかったかもね。仕事をして、家事をして、育児もしてとなると、お母さんの負担は相当重かったと思う。 ごめんね。辛抱してね。と、ずっと心の中であなたに思ってきたから、いまだにそれが解消できない。

 お母さんと、おばあちゃんの間にも、何か同じように母娘として自然でない何かがあったのかなあと想像してしまいます。親を大事にするというやさしさを超えて、何かムキになって母親の介護をしているように見えるから。自分の子供をも見られない忙しさの中で、実家の母親が娘であるあなたのお母さんを求めていた時期に応えられなかったとか、何かの理由で母親との関係に空白が生じていたのか、まるで失われたものを取り戻すようにおばあちゃんに付き添っているものね。

 母親も大事、娘も大事。まるで自分の身体をふたつに割って、娘と母の務めを果たそうとしているように感じる。それができないから時間をふたつに割ろうとしている。結婚式の時も、あなたの出産の時も、両方に自分がいなければいけないと思い込んでいるみたいだものね。結婚式や出産の時ぐらい、誰かに頼むとかできるはずなのに、それをしない。しないのは、それができない何かがお母さんの気持ちにあるってことでもあるよね。

 想像でしかないんだけどね、お母さんとおばあちゃんの間にも、何か不完全燃焼の部分があるのかもしれないね。 お母さんは今、娘として自分の母親との関係を必死で作ろうとしているというか、自分と母親との空白を埋めようとしているように見えるんだよね。 それをクリアしないと、何も始まらないという勢いだからね。

 何か、あなたとお母さんはとっても似ているように思うなあ。どっちも、母親をとっても強く求めている。つまり向き合うというより、お母さんは娘として母親であるおばあちゃんの方を向き、あなたはそんなお母さんの背中を必死で追いかけている感じ。

 このまま行くと、おばあちゃんが亡くなった後、次はあなたがおかあさんとの失われた時間を取り戻すべくべったりになり、あなたの後ろ姿をあなたの息子が「何なんだよ」と呟きながら見ているという連鎖になりそう。

 今、完璧な介護をしようとして一杯一杯のお母さんに、満たされない思いをぶつけてもとても余裕がないでしょうね。そのことで傷ついて、かえって不満が増し、 だんだん暗くなってくるあなたを、あなたの息子が悲しい思いで眺めていることを忘れないでね。 あなたの心の相当部分を、自分ではない人を求める気持ちが占めていることは、 子供にとっては切ない。子供は敏感だから、わかっちゃうよ。

 おばあちゃんは98歳。確かにそう長くはないだろうね。あと数年なら、お母さんに思い切り娘をさせてあげるという手もあるんじゃない。その間は、あなたは息子と、ゆったり時間を過ごしたらいいのに。男の子なんて、小学校卒業するくらいまでがかわいいんだよ。遠慮なく何でも言い合える関係と、 100%母親に愛されているという時間の実感を与えておかないと、中学に行ったら男の子は急変するから。 一時的に、完全に母親に背を向けたり、何もしゃべらなくなったりする時期が来るから。 今は、お母さんはおばあちゃん、あなたは息子と目一杯親子してればいいのかもよ。

 それともうひとつ。あなたは「もっと会いに来て欲しい」「一緒にいて欲しい」とお母さんの方から歩み寄ってくるのを待っている。ずっとお母さんを待っていたから、そうなってしまうのはわかるけど、もうちょっと能動的に考えてもいいんじゃないかしら。

 会いたかったら会いに行く。一緒にいたかったら一緒にいる時間を過ごす。介護でお母さんの方から来る時間も精神的な余裕もないなら、あなたの方から「会いたくなったから会いに来たよ」って訪ねていけばいいのに。「大変でしょ」と介護を手伝ってあげたって、一緒にいることになるでしょ。

 今のままじゃ、 お母さんにいて欲しいと思っても、一緒にいても何か一生懸命一緒にいるって感じになりそうだからね。 もっとさりげなく、もっと自然に一緒にいる。 そのためには、あなたとお母さんは、 ちょっとリハビリが必要かも。 そのためにも、何か手伝ったり、用事をしながらだったり、間におばあちゃんという存在を挟んでお母さんと一緒に過ごしたりするほうが、ゆるやかに母と娘の自然体を作り上げられるような気がするけど……。