No.218
実家の父が退職、一日中家で過ごすようになりました。
母が息苦しさを感じて元気がなくなり心配です
S・Tさん(33歳) 夫 子どもふたり
2006.3.01
 実家の母のことについて相談させてください。私は、現在、夫と子どもたちの4人家族です。私には兄と妹がいますが、私を含めて3人とも大学に進学するときに実家を離れております。母は現在59歳です。
 実は、昨年の5月に父(64歳)が退職して一日家ですごすようになってから、母の元気がなくなってきました。先日たまたま父が出かけているときに、私が実家に電話すると、「近所のスーパーにも一人で行けず、友達と電話していてもお父さんが傍でじっと座っているのよ」と話していました。
 父は、仕事はきちんとやってきて、退職後も別のところに引き抜かれ、会社役員までやってきました。世間的にはきちんとした人です。でも、昔から二重人格で、外ではいい人なのですが、家の中では自分の感情で物を言う人でした。
 母はそんな父に私たちが振り回されることがないよう、いつも自分が我慢して私たちを育ててくれました。母とは価値観の違いを感じたりしたこともあったのですが、私たち子どもも手が離れて、父も退職して時間に追われる生活がなくなったのに、以前より元気がありません。このままでは、ノイローゼになってしまうのではないかと心配です。
 私も7歳と2歳の子どもを抱えて、しょっちゅう実家に帰るわけにもいかず、どうしたら母を救えるか思案しています。吉永先生、どうぞ力を貸してください。
 
夫婦の新しい関係を作れるかどうかが解決の鍵。
自分だけの楽しみを外で探せるよう、手助けしてあげてください
 ニッポンの中高年夫婦の典型的なパターンだよね。お父さんも二重人格なんかじゃなくて、ニッポンの男性の実にポピュラーな姿だと思うよ。

 家から一歩出ると、人に合わせたり、 笑顔で対応したり、一生懸命に場を盛り上げたりして、社会的な存在になるけど、家の中では笑って損したという感じで、縦のものを横にもしないでわがまま放題。妻はどんな自分だって許してくれると思い込んでいるんだよね。家族の寂しさ、とりわけ妻の気持ちなど、まったく頓着しない。会社で疲れているんだから当然、 俺がメシを食わせているんだから当然と、 家では思い切り感情を発散させてしまう。それだけ、家の外でストレスが強いということもあるんだろうけど、一緒に暮らす人間はしだいに心が冷えてくるよね。

 でも、妻は、子供のためと、やはり経済的に頼らなければならない事情でひたすら我慢している。ギリギリの我慢を支えているのは、昼間会社に行っていなくなるという一点なわけよ。その一点が消えるのが、完全退職の瞬間ということ。

 ひと昔前に粗大ゴミとか濡れ落ち葉って言葉があったよね。 仕事がなくなって、 家の中で呆然自失。邪魔以外の何物でもない存在に成り果ててしまう男性の姿を、このように表現したんだけどね。散々エラソーにしていたくせに、 家のことも、 自分のことも何もできずに、いきなり妻にべったりしちゃう。する方はいいけど、される方はたまらない。

 これまではあなたがた3人の子供を育てることに気持ちを集中させ、子供たちが独立してからは、きっとお母さんは昼間の自由な時間をささやかに楽しんでいたんだと思う。 その中で、友人関係も出来て、興味のあることも生まれ、 そのことが生きる拠り所にもなっていたんだと思う。夫と人間的に認め合う関係をなかなか築けず、まるで家事と育児担当のような関係で、会話はほとんど業務連絡に毛のはえたようなものでは、 夫以外の部分で楽しみを見つけてバランスを取るしかないものね。

 その貴重な自由が、毎日夫が家にいることで奪われてしまう。いまさら新婚時代のように会話が弾むわけはない。何より結婚生活の過程で会話がはずむような関係をつくってなかったからね。1日中ふたりで一緒にいるのは息がつまりそうな感じなのかもしれないね。

 お父さんが家にいるから、自由に外出することもできない。いちいちどこに行くんだなんて聞かれるのも、たまらないしね。近くで聞いていられたら、思い切り電話で友達と話すこともできない。これは、大変なストレスだよね。「気にしないで、これまで通りにしていなよ」と言っても、お母さんも昭和20年代の生まれだから、夫が家にいると、おっぽり投げて自由に行動することができない。だから、抜け道がなくなってしまっているんだね。

 このままでは、お母さんのイライラは募るばかりで、それを押さえていると神経がまいってしまう。このままだと元気がなくなるどころか、たまりにたまったストレスに飲み込まれるか、何もかもぶっ壊すほど爆発しちゃうか、やや心配。

 とにかくお父さんと、のべつ一緒という状態から、お母さんを自由にしてあげることが大事かもね。それはお父さんが、自立するためにも必要だと思う。まるで母親に頼るように妻のあとを金魚の糞みたいについて歩いていては、この先困るでしょ。 今、何となくその状態を許容してしまっている。このままだと双方のためにならない。

 あなたが時間を作って実家に帰っても、 根本的な解決にはならないと思うよ。お母さんが自由にひとりで家から出られるようにすること。「ちょっと用事があるので、留守番頼みますよ」とさらっと言えればいい。最初の一歩が踏み出せれば、次の一歩も続ける。お父さんもだんだんとそれを受け入れるようになる。

 お父さんも、このままだとまずいよ。まだ64歳だものね。 むしろ、あなたがお父さんの相談相手になって、何か考えているのか、これからどうするの?ということを、さりげなく聞いてあげればいいのに。妻には言えないことも、娘には言えるかもしれないからね。 ただ、怒っちゃダメだよ。男性はすぐいじけるし、俺を何だと思ってるんだ!と切れるからね。これまでの苦労をいたわり、感謝していることを示すと素直に耳を傾ける。

 リスペクトしつつ諭すというワザが必要な事柄なので、要注意です。家にばかりいないで何か楽しみや、 ボランティアや、習い事や、自分のための時間を作ってくれるのが望ましい。そのことで、お父さんもお母さんを追わなくなる。それより、会社以外の人間関係が新しく出来ることが一番いい。心身の健康のためにも大事だと思う。

 お母さんだって、まだ59歳だものね。今は、お父さんのために今後の自分の人生に蓋をされたような気分なのかもしれないけど、蓋は自分で開けないと始まらない。慰めや一時的ストレス解消に付き合ってあげるより、かたまったままの両親が再び新しい関係を作れるような流れを作ることを助けてあげるのが、長期的に見ても懸命なような気がする。